まだセキュリティをコストと呼びますか?SCS評価制度で変わる価値
1. 2026年、信頼に「客観的な指標」が生まれる
日本のビジネスシーンにおいて、2026年は「信頼」という形のない資産が、初めて明確な「基準」を持つ年として記憶されることになるのではないでしょうか。その大きな転換点となるのが、経済産業省が主導する「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」です。
これまで、多くの企業にとってセキュリティは「やっていて当たり前だが、価値を説明しにくい」という、いわば「保険」や「税金」に近い存在でした。経営層から見れば、どれほど多額の投資を行っても、事故が起きない限りその価値が表面化することはありません。そのため、多くの現場では「守りの費用(コスト)」という認識が強く、投資に対して消極的、あるいは受動的な対応に留まってきました。
しかし、新制度の導入は、この曖昧だった「企業のセキュリティレベル」に対し、客観的で比較可能な「指標」を与えることを意味します。★4、★5といった格付けがなされることは、単なるランク付けではありません。それは、自社がどれだけの責任感を持ち、ビジネスの継続性を担保しているかを、公的な枠組みの中で「透明化」することです。

経済産業省はこの制度について、「他社と順位を競わせること」を目的としているわけではないと言及しています。真の狙いは、セキュリティ対策の状況が可視化されることで、発注側と受注側の双方が「納得感のある信頼関係」を築ける市場環境を整えることにあります。
この制度を「新たな負担」と捉えるか、あるいは「自社の安全品質を根拠を持って示せるチャンス」と捉えるか。その視点の差が、2026年度以降、顧客から「選ばれ続ける企業」としての地位を確立できるかどうかの決定的な分岐点となります。本コラムでは、セキュリティが「守りの費用」から「企業の信頼を裏付ける品質(資産)」へと進化する理由と、その実利を経営戦略にどう組み込むべきかを詳説します。
2. なぜ「コスト」から「投資」へ意識が変わるのか
なぜ、SCS評価制度への対応が、単なる出費ではなく「投資」としてのリターンを生むのか。そこには、ビジネスの原理原則に基づいた3つの論理的根拠があります。
① 情報の非対称性の解消 – 対策の「透明性」がビジネスの加速を生む
これまでの取引において、発注側(委託元)が受注側(委託先)のセキュリティレベルを正確に把握することは、困難かつ非効率な作業でした。現状の多くは、年1回の「セキュリティチェックシート」による自己申告に依存しています。しかし、数百項目に及ぶシートへの回答は、作成する側にも確認する側にも膨大な工数を強いる一方で、その実態がどこまで伴っているかを検証する術は限られていました。
ここに「情報の非対称性(売り手と買い手の情報格差)」が生じます。真摯に対策を講じている企業も、そうでない企業も、書面上は「対策済み」となってしまう。この不透明さは、顧客側の「不信感」や「過度な確認工数」を招き、結果として商談のリードタイムを長期化させ、成約の足かせとなってきました。
SCS評価制度による格付けは、この非対称性を一気に解消する「共通言語」となります。第三者評価に基づく客観的な指標は、顧客に対して「当社の安全品質は、この基準で担保されている」という強力な根拠を、一目で提示することを可能にします。これにより、無益な書類のやり取りを削減し、顧客の安心感を早期に獲得することで、ビジネスの成約スピードを飛躍的に高めることができるのです。
② 付帯品質としてのセキュリティ – 製品・サービスの一部としての「安全スペック」
製造業において「製品の精度」や「耐久性」が品質の不可欠な要素であるように、DXが進展した現代、セキュリティはもはやITの付随要素ではなく、提供する製品・サービスの「品質(スペック)」そのものです。

例えば、工作機械や医療機器、ソフトウェアサービスを提供する企業にとって、そのシステムがサイバー攻撃によって停止したり、情報が漏洩したりすることは、納品した製品が「致命的な欠陥」を露呈したことに他なりません。顧客が求めているのは、単なる「便利な機能」ではなく、「安全に使い続けられるという保証」です。
SCS評価制度における高い格付け(★4 以上など)は、いわば「デジタル版の品質保証マーク」です。これをコストと捉える企業は、安全性の低い製品を安く売ろうとしているのと同義であり、長期的な信頼を損なうリスクを抱えています。逆に、これを自社のサービス品質を支える「重要スペック」と定義する企業は、市場において「高信頼なパートナー」としてのブランドを確立できます。これは価格競争に巻き込まれることなく、自社の提供価値を正当な価格で維持するための、極めて合理的な経営判断となります。
③ 証明の自動化(仕組み化) – 確認工数を「資産」へ置き換える
これまでのセキュリティ対応が「負担」と感じられていた最大の理由は、その証明プロセスが「属人的」で「労働集約的」だった点にあります。監査や調査のたびに過去のログを漁り、資料を手作業で整理する。この作業には再現性がなく、何も蓄積されない「純粋な消耗」です。
SCS評価制度、特に高い実効性が求められる格付けを目指す過程で必要となるのは、「やっているつもり」という規程ではなく、「常に正しく運用されている」という実態の証明です。ここで重要になるのが、人力による管理を卒業し、システムによる「証跡(エビデンス)の自動生成」へとシフトすることです。
例えば、特権ID管理(PAM)などのソリューションを導入し、誰が・いつ・何をしたかの記録が自動的に、かつ改ざん不能な形で蓄積されるインフラを整えたとします。このとき、蓄積されるデータは単なる「記録」ではなく、いつでも外部に提示できる「信頼の証明書」へと変貌します。
確認にかかる工数を、システムという「仕組み(資産)」に置き換える。これにより、現場の負荷を軽減しながら、同時に格付けの信頼性を高めるという、経営効率の最適化が実現します。
3. SCS評価制度を「信頼の基盤」に変えるために
SCS評価制度の本質は、スコアの優劣を競うことではなく、「サプライチェーンの一員として、どれだけ誠実にリスクをコントロールできているか」を可視化することにあります。この制度を、単なる外部評価ではなく「選ばれる企業」としての実力を磨くためのチャンスとするための、2つの戦略的アプローチを提案します。

顧客の「安心」を支えるパートナーシップの再構築
評価指標を営業ツールとしてではなく、顧客が抱える「説明責任」や「不透明な不安」を取り除くための共通言語として活用します。
「根拠のある安心」の提供
「安全です」という主観的な主張ではなく、制度が示す客観的な基準に則って自社の運用を整理・提示します。これは、顧客が自社の社内監査や上層部に対し、「なぜこの委託先(パートナー)を選んだのか」を自信を持って説明するための「客観的な裏付け」をサポートすることに他なりません。
非財務情報の価値向上
サイバーレジリエンス(回復力)への取り組みを、ESG経営やガバナンスの一環として捉え直します。透明性の高い管理態勢を維持することは、不測の事態においてもビジネスを継続できる「持続可能性の高い企業」であることの証明となり、長期的な信頼関係の構築に寄与します。
仕組みによる「自律的な透明性」の確立
高い評価基準が求める「実効性」を維持し続けるには、現場の努力に頼るのではなく、テクノロジーによって「自然とエビデンスが残る状態」をインフラ化することが重要です。
特に、システムの根幹を揺るがす「特権ID」の管理は、信頼性の要となります。
「透明性の自動化」による信頼の担保
特権ID管理(PAM)を、単なる制限ツールではなく「品質保証の基盤」として再定義します。管理者が手動でログを確認するのではなく、システムが自動的に「誰が・いつ・何をしたか」を改ざん不能な形で記録する仕組みを構築します。これにより、作為的な操作が入り込まない「自律的な透明性」が確保されます。
「証明コスト」の最小化と攻めのリソース配置
監査や顧客報告のために膨大な工数を割くのではなく、日々の運用そのものが証跡(エビデンス)となる仕組みを整えます。報告のための作業を最小化することで生み出されたリソースを、より高度なサービス品質の向上や、顧客のビジネスを加速させるための「攻めの領域」へとシフトさせることが、真に「選ばれる」ための原動力となります。
4. 市場は「信頼の質」で再編される
経済産業省が主導するSCS評価制度は、企業を序列化するためのものではありません。しかし、その結果として生まれるのは、セキュリティという「見えない品質」が可視化された、より健全で透明性の高い市場です。
これまでは「安さ」や「長年の関係性」という曖昧な基準で選ばれていた取引も、2026年以降は「どれだけ信頼の根拠を提示できるか」という基準が、サプライチェーンの調達基準として組み込まれていくことになります。
これは、真摯にセキュリティを「品質」として磨いてきた企業にとって、最大のチャンスです。コスト増を恐れて対応を先送りにする競合が立ち止まっている間に、自社の安全品質を客観的な指標で可視化し、それを顧客への提供価値として堂々と掲げる。この「先行者としての透明性」は、一過性の成約率向上だけでなく、長期的なパートナーシップを築くための「信頼の礎」となります。
もはや、セキュリティは情報システム部門だけの課題ではありません。
「わが社は、どのような根拠を持って顧客に信頼を約束するのか」
経営層が下すべきこの決断こそが、2026年以降の市場で「選ばれる理由」を作り出す、最大の経営戦略となります。
制度を「外圧」として受け入れるのではなく、自社の価値を再定義するための「機会」へ。
今こそ、セキュリティを「守りのコスト」から「攻めの品質」へと転換し、信頼による市場再編の波を乗りこなす時です。
統制の「仕組み化」が、社会的信用の証となる。
本コラムで解説した「エビデンス生成の自動化」や「物理的なアクセス統制」を実現する特権ID管理ソリューションの詳細は、以下のページでご確認いただけます。
格付け制度への対応に向けた具体的な機能実装のヒントとして、ぜひお役立てください。




